幼稚園の送迎帰り、タワマンのエントランス前で小泉莉緒は笑いながら言った。 「私、あなたの上の階、買ったから」 上下で人を見下すような口ぶりに、榊原幸は言葉を失った。だが幸は中層階で、夫・光一と子どもとともに、管理費や修繕積立金を見据えた堅実な暮らしを守ってきた。莉緒はそれを、何度も「下」と決めつけ、優越感を示し続けた。しかし数週間後、空気は一変する。管理会社の掲示が増え、莉緒の声は次第に焦りを帯びていく。ある日、ロビーで彼女は管理費改定と一時金の案内を突きつけられ、顔色を失った。 「聞いてない! そんなの無理よ!」 ついには未納が発覚し、借金は1500万円超へ。 後日、莉緒は小さく頭を下げた。 「何で教えてくれなかったの?」 幸は静かに答えた。 「比べていたのは、あなたの方です」 そして莉緒は、ついにタワマンを去った。