「失敗作だから食べて」――そう言って、毎日コロッケをくれた女子高生の名前は宮原葵だった。空腹の少年・白石ユウトは、彼女のささやかな優しさに救われ、やがて施設を経て社会へ出る。16年後、再び故郷を訪れたユウトが見たのは、商店街の裏手で土下座する葵の姿だった。老舗惣菜店は、大手食品会社による悪質なデマで客足を絶たれ、買収寸前に追い込まれていたのだ。ユウトは静かに証拠資料を差し出す。噂は偶然ではなく、最初から作られたものだった。口コミの捏造、広告会社の指示書、架空アカウントの記録――すべてを突きつけた瞬間、担当者は顔色を失い撤退した。そして彼は、ただ一つだけ願った。「あの時のコロッケを、もう一度作ってください」。熱い揚げ物を口にした瞬間、あの日の味がよみがえる。