「腹、減ってるんだろ」――冬の冷たい雨が降る夜、東京下町の路地で、69歳の店主・村上秀一は18歳の少女を見つけた。 茶金色の髪は濡れ、薄いパーカーの袖口は汚れ、彼女は壁にもたれたまま動かなかった。秀一は多くを聞かない。ただ店へ戻り、冷や飯、卵、長ネギだけで炒飯を作る。 「同情じゃねえ。残飯を減らしたいだけだ」 そう言って差し出した一皿を、少女――相沢美奈は黙って食べ始めた。二皿目を平らげたあと、ようやく事情を語る。母を亡くし、居場所を失っていたのだ。それから4年。22歳になった美奈は、あの店に戻ってきた。だが今度は客ではない。 弱った秀一のため、彼女は働きたいと頭を下げる。