葬式の場で、若い妻は黒い喪服の4歳の少年を前に、吐き捨てるように言った。 「誰かこの子、引き取ってよ」 親族は視線をそらし、誰も手を伸ばさない。泣き声ひとつ上げず床を見つめるその姿に、保育士の木本美智子は胸を裂かれた。かつて自分も、子を産めないと言われ、家を追われた女だったからだ。震える声で「私が育てます」と告げた瞬間、少年・御言の運命は変わる。 それから20年、彼は建築士を志す青年となり、美智子の玄関を訪れた。差し出したのは、一枚の設計図。紙には「誰にもいらないと言われない家」と記され、玄関は広く、母の部屋まで用意されていた。「お母さん、僕を連れて帰ってくれてありがとう」 その言葉とともに、美智子の止まっていた時間が静かにほどけていく。血のつながりではなく、手を伸ばした勇気が家族をつくるのだと、涙が教えていた。