「ボロ店の料理なんて食えるかw」 西園寺は貸切予約を当日にドタキャンした。相手は、亡き夫と二人三脚で守ってきた小料理屋・高田。美咲は沈黙したまま座敷に並べた料理を片付けるしかなかった。二十年続く古い店だが、常連には愛されている。近くの商社で専務にまで上り詰めた近藤は、この店の煮物を何より好んでいた。翌日、本社の会議室で西園寺は青ざめた。近藤から「五百億の契約は白紙にする」と告げられたのだ。理由は、美咲が近藤に相談していたからだった。西園寺が吐いた「ボロ店」の一言は、恩人を侮辱したものとして即座に重く受け止められる。必死に弁明しても遅かった。取引先は離れ、同期の笑いも消え、始末書と担当外しだけが残る。半年後、地方へ飛ばされた西園寺は、古びた社宅を見上げて震えた。 「ここ、けっこうボロいすね」 自分の言葉が、冷たく返ってきたのである。