「中卒は邪魔だからクビね」と、社長夫人の加奈子は笑って言い放った。 会社でたった一人のエンジニア、西村美咲は、十年間ひとりで精密機器の保守を支えてきた存在だった。高校には行けなかった。十五歳で母が倒れ、治療費のために進学を諦めたのだ。マニュアルはなく、三百社分の機種情報も、深夜対応の癖も、すべて美咲の頭の中にあった。ところが加奈子は「高学歴で固める」と言い、入社半年の田中に引き継がせた。翌朝、会社の電話は鳴り止まない。 「西村さんに調整をお願いしたい」 三百社すべてが、契約停止の協議を求めてきたのだ。売上の六割を失う危機に、病室の社長も激怒した。だが時すでに遅く、加奈子は経営から外された。 一方、美咲は新しい職場で主任として迎えられる。 「十年できる人が、一人もいませんでした」 その言葉が、彼女の価値を何より雄弁に証明していた。