父は急な心筋梗塞で、五十二歳の若さで息を引き取った。 持病など聞いたこともなく、家族はただ呆然としていた。通夜の準備が進む中、棺桶の中から突然、聞き慣れない着信音が鳴り響いた。 「え、なんで……」 恐る恐るスマホを取り出して出ると、受話口の向こうから明るい声が飛び込む。 「パパ元気?」私は言葉を失った。相手は名を名乗り、「私も娘だけど」と告げたのだ。 父には、今の家族の前にもう一つの人生があった。半年前から心臓の治療を受け、病気を隠したまま、日曜には娘の結婚式でバージンロードを歩くつもりだったという。棺に入っていたのは、弟から預かったスマホだった。母は静かに、父が日曜に着るため自分で用意したスーツを差し出した。 「約束してたの。あの子の花嫁姿を、ちゃんと見送るって」死んだはずの父が、最後まで家族をつないでいた。 その事実が、胸を深く刺した。