645年、奈良の飛鳥浄御原宮で勃発した日本史屈指の政変「乙巳の変」。その中心にいたのが、名門貴族・蘇我氏の嫡男、蘇我入鹿でした。改革を目指す中大兄皇子(後の天智天皇)と中臣鎌足らが企てた襲撃劇は、瞬く間に蘇我入鹿の生涯を終わらせます。しかし、本当に興味を引くのは、彼の最期だけではありません。語り継がれる逸話があります。それは「首の怪」として知られています。蘇我入鹿が斬首されたその刹那、彼の首が地上で転がったといいます。その首が、最後に何とも不気味な微笑みを浮かべたというのです。侍たちはその場を静まり返り、不吉な気配に包まれたと伝えられています。泣き叫ぶ者もいれば、武器を投げ捨てて逃げ出す者もいたとか。「業の深さ」や「蘇我氏の威光」を象徴するものだという解釈もあり、様々な議論を呼び起こしました。首が笑ったのが本当だったのか、それとも恐怖に怯えた者たちの幻覚だったのかは、いまだ謎のままです。しかし、この事件は乙巳の変をさらに神秘的で恐ろしいものにしています。蘇我入鹿の首を巡る異様な逸話は、歴史の闇に埋もれた謎として私たちの興味を引き付け続けるのです。