夏江さんは肩身の狭い思い出息子の家を訪れていた。「たった一晩泊まっただけで、自分の家のように居座るなんて…」という嫁のレナさんの言葉が、酔いの中から漏れて耳に届く。この言葉を聞いた時、彼女の心の中で何かが静かに崩れた。信じていた家族の絆が裂かれ、痛みを伴って胸に響く。優しい笑顔で「助かります」と言ってくれたあの言葉は何だったのか。翌日、夏江さんは黙って荷物をまとめ、決心を胸に秘めて自宅へ戻った。落ち着いた長野の自宅に戻ると、彼女は心に生じたひんやりとした風を感じた。今まで他人のために費やしてきた人生を、これからは自分のために使おうと決心する。息子夫婦へのマンションの譲渡を考えていたが、やめることにし、不動産屋に売却の相談を始めた。この決断に胸の中で何かが晴れた気がした。月日が経ち、陶芸教室での新しい楽しみや静かな日々を彼女は満喫し始める。そんな頃、息子からの手紙が届く。「美緒がばあばの顔が見たいって」と心からの温かい言葉に加わってレナの謝罪の手紙も。「また笑って話せる日が来たら嬉しい」という謝罪が少し遅かったものの、彼女はその手紙を優しさで受け止めた。自分の幸せを重要視しながら、家族とのつながりを保つ方法を見つけ、彼女の日々は静かに豊かに流れ始めた。