会社の同僚たちが休日に鍋会を開いていたことを、立花直樹が知ったのは夕食を考えていた何気ない時間だった。同期のグループチャットに流れてきた集合写真。そこに自分の姿はない。呼ばれなかった理由には心当たりがあった。年末、難航していた案件を成功させ、上司から評価されたことで、以前から自分を快く思っていなかった悪井健一の反感を買っていたのだ。悔しさを紛らわせるように一人鍋を決めた立花だったが、その夜、思いがけず篠田美咲から連絡が入る。事情を察した彼女は、同期の鍋会を抜け出し、立花の家を訪れた。「美味しいね」と無邪気に鍋を囲む時間は、孤独だった心を静かに温めていった。翌週、職場ではその行動を巡って波紋が広がるが、篠田は自分の意思だったと毅然と語る。その姿に立花は救われ、二人の距離は確実に縮まっていった。やがて再び開かれた鍋会では、立花の素朴な鍋が同僚たちの心を掴み、悪意だけが空回りする結果となる。一人で食べるはずだった鍋は、人との縁を結び、恋へとつながった。あの夜の「美味しい〜!」という一言が、立花直樹の未来を静かに変え始めていたのである。