北野氏の実体験や周囲の年金生活者の現実を通して描かれる老後の姿は、決して理想とは程遠い。例えば、退職金を手にした初老の人々が、悠々自適な生活を夢見ていたものの、その終盤に待つのは、やることのない日々、劣化する体、そして孤立した心。「定年後は自由が待っている」などという幻想は、実際には存在し得ないと北野氏は断じる。特に、若い頃から「老後のために」と自分を押し殺し、ひたすら日々を耐え忍んだ人々ほど、その虚しさに陥りやすいのだ。彼が言う「今を生きろ」というメッセージは、単に勢いだけで語られているわけではない。むしろ、幼少期の苦労や、最期まで生きがいを持ち続けた父親の背中を見ながら、北野氏が体得した生き方の哲学そのものだ。未来の不安に縛られるのではなく、今日を全力で生きることこそが、結果的に人間を豊かにすると彼は繰り返し訴える。「いつか」と言って先送りした時間は、決して戻ってこない。若い頃にしかできない体験や出会いがある。そしてそれらこそが、老後になっても人間を支える大きな財産となるのだ。北野氏は、現代に横行する「老後教」とも言える生き方に異議を唱えながら、生涯現役であり続けることの意義を強く説く。