ロンドン留学中、ウエンツ瑛士は深い孤独の中で苦しんでいた。英語力への不安、結果を残さなければというプレッシャー、さらには「日本語を使わない」という自己ルールが彼を精神的に追い詰め、うつ状態に陥らせていた。しかし、その状態を完全に隠していた彼が救われる一言をもらったのは、長嶋一茂からの一本の電話だった。ある日の授業の合間、一茂からの電話に出たウエンツは、「今、授業中なので」とだけ言い電話を切ろうとした。しかし、その瞬間、一茂は「ちょっと危ないな、それ」と直感的に言い放ったのだ。ウエンツにとっては平静を装ったつもりだったが、一茂はその背後に潜む心の異変を見逃さなかったのである。実は、一茂自身も過去に祖母と母を立て続けに亡くした経験から、パニック障害とうつ病を患っていた。この辛い経験があったからこそ、ウエンツの僅かな異変も見逃さなかったのだ。その後、一茂はウエンツにイギリスで利用できるサプリメントや食事方法、そして日本語を話すことの大切さなどを細かく書いたリストを送付。ウエンツはそのリストに従い、徐々に心の健康を取り戻していったという。