離婚して四歳の孫を連れ、アパートで暮らし始めて三か月。 私は電車を二本乗り継ぎ、鍋ごと抱えた肉じゃがを娘の元へ届けに行きました。合鍵で入ると、部屋は妙に静かでした。薄暗い台所で、娘は机に突っ伏したまま動きません。右手にはタッチペン。昨夜も、三千円のチラシデザインを四本、徹夜で仕上げたのでしょう。居眠りだと分かり胸をなで下ろし、私は冷蔵庫を開けました。すると、そこにあったのは水一本と、卵ケースの卵が二つだけ。孫の明日の朝食分でした。空のインスタント麺の容器を見た瞬間、胸が締めつけられ、涙が止まりませんでした。その時、孫がエプロンをつかみ、「ママ、お腹いっぱいって言ってたよ」と小さく告げました。 目を覚ました娘は、慌てて紙を片付けます。「大丈夫、もう少し頑張れば」――痩せ細った腕を隠す娘に、私は言いました。「親に助けてと言えないなら、誰に言うの。帰りなさい」 娘は泣き崩れ、私たちは三人で肉じゃがを分け合いました。あの日から、実家での暮らしが始まったのです。